JACK休憩所

慶應義塾大学ジャパンアニメカルチャー研究会のブログ

四畳半は広大無辺【その1】

こんにちは、ピ蔵です。

「大学三回生の春までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石の数々をことごとくはずし、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでもいい布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえであるか。」

という耳が痛いというよりは、目に染みる文章から始まるのは森見登美彦氏の「四畳半神話体系」という本である。

 

本作は2010年にノイタミナ枠でアニメ化されている。監督は湯浅政明さんで、主人公の腐れ大学生は浅沼晋太郎さんが、悪友の小津は吉野裕行さんが、孤高の乙女、明石さんは坂本真綾さんが、ナス顔の師匠は藤原啓治さんが担当している。個人的には、小津のいつもひねくれていて小賢しいが憎めない性格が好きで、もしこんな人が友達にいたら毎日事件ばかりで楽しいだろうなぁ、と作中の「私」の苦労なんて歯牙にもかけず羨ましく思うのだった。

 

基本的に一人称視点で延々と主人公の「私」の心の内が語られる。「私」は非常に早口で間髪入れずにどんどん喋る。おそらく浅沼さんは苦労されたのではないかと思う。しかしそれだけに浅沼さん演じる、ねじくれていて理想と現実のギャップに憤慨する大学生「私」の声を存分に聞くことができる。

 

初めてこの作品を読んだのは確か中学生の時だった。そのときは正直にいうと「なんじゃあ、このくどくどしいお話は。ごぼうとレンコンとたけのこと山菜を一斉に煮出して出たアクを抽出・精製する工程を100回ぐらい繰り返してもこの作品のアクの強さには負けるな」と思っていた。今ならその理由がわかる。中学生の私は今よりももっと素直で世界を澄んだ目で見ていて、未来に希望しか抱いていないような子だったからだ。それが高校、浪人と、さして広くもない世界の荒波に揉まれ、気づけば私もレンコンを煮詰めたかのような人物に育ってしまったわけだ。だからこそ冒頭のあの文章がすんなり体に入ってくるし、読むとなんだかいたたまれない気持ちになるのだ。先に本を読んでいたので、映像になったらどうなることやらと思っていた。湯浅監督独特の色使いや線が原作のアクの強さをうまい具合に中和させているというべきか、加速させているというべきか。ともかく、原作とはまた違う四畳半世界を生み出している。また、オープニングに実際の京都大学吉田寮の映像が使われており、生々しい大学生の生活が感じられて好きだ。

 

書きたいことが多すぎていつまで経ってもまとまらないので、いっそのこと連載形式でいくことにした。

この続きは次の投稿で。