JACK休憩所

慶應義塾大学ジャパンアニメカルチャー研究会のブログ

ピ蔵十夜【第二夜】

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第二夜

 

 こんな夢を見た。

 リビングを出て、階段を降りて自分の部屋に帰ると、嵐でも通ったのではないかというほど物が散乱している。積み上がった本を倒さないよう、慎重にルートを定めながらベッドまで歩くと、部屋全体が見回せた。

 壁に貼ってあるポスターは、機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズのオルガと三日月のツーショットである。その他の大事なポスターは、丁重に保管してあるので、なんとなく壁が寂しい。

 立膝をしたまま、左の手で布団をめくって、右手を差し込んでみると、思ったところに、ちゃんとあった。あれば安心だから、布団をもとのごとく直して、その脇にちんまり座った。

 私は九条天のファンである。ファンであるならば生誕祭のカードが引けぬはずはなかろうと、心の中のもう1人の自分が云った。そういつまでも引けぬところをもってみると、御前はファンではあるまいと云った。人間の屑じゃと云った。ははあ怒ったなと云って笑った。悔しければ引いてこいと云ってぷいと向こうへ行ってしまった。怪しからん。しかし引き難し。

 床に置いてある時計が次の刻を打って日付が変わるまでには、きっと引いて見せる。引いた上でURまで覚醒してやる。覚醒させるためにはもう一枚生誕祭のSRを出さなければならない。自分は九条天のファンである。

 もし引けなければ、時計が鳴った瞬間に生誕祭ガシャは終了してしまう。そうすれば手に入れる機会はもうないだろう。

 こう考えた時、自分の手はまた思わず布団の下へ入った。そうして前に買った雑誌の付録の、九条天と七瀬陸のツーショットのポスターを引きずり出した。変なシワがつかないように気をつけながら、はらりと広げたら、2人の天使のような微笑みが部屋全体に広がった。

 ポスターをベッドの上に置いて、それから全伽を組んだ。――物欲センサーに引っかからないために無になるのだ。無とはなんだ。宇宙猫になればいいのか。

 あまりに猫になろうとしたので、体幹がグダグダになってしまった。そのままベッドの上に寝転んでしまった。壁に貼った鉄オルのポスターが見える。オルガがこっちを見ている。見てんじゃねぇよ…。どうしても無になってやる。

 無だ、無だと舌の根で念じた。無だと云うのにやっぱりオルガに見られている気がした。何だオルガのくせに。

 自分はいきなり意思を固めて10連ガシャのボタンを押した。そうして奥歯をぎりぎりと噛んだ。両腋から汗が出る。背中が棒のようになった。苦しい。

 しかし、お目当のカードは出てこなかった。苦しい。ステラストーンはあまり使いたくない。腹が立つ。無念になる。非常に口惜しくなる。涙がほろほろ出る。それでもあと一回だけ10連を引こうと思った。耐え難いほど切ないものを胸に入れて忍んでいた。その切ないものが身体中の筋肉を下から持上げて、毛穴から外へ吹き出よう吹き出ようと焦せるけれども、どこも一面に塞ふさがって、まるで出口がないような残刻極まる状態であった。

 そのうちに頭が変になった。オルガの視線も、あの双子の天使のような笑みも、竜巻の中心地点のような部屋も有って無いような、無くって有るように見えた。といって生誕祭SRの九条天はちっとも現前しない。自分はただいい加減に坐っていたようである。ところへ忽然床に置いてある時計がチーンと鳴り始めた。

 

はっと思った。視線を双子のポスターに向けた。時計が二つ目をチーンと打った。